【書評】Designed for Digital

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久々の書評です。ここ数年、1日に一回は見聞きするワードとして、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」があります。ビジネス誌にはこの見出しが踊り、本屋さんのビジネス書コーナーにはDX関連の書籍の山・・・。

しかしこれらの書籍のほとんどが、DXの本質的なことまで語れていません(ほぼ全ての書籍に目を通したうえでのコメントです)。そんな状態なので、「DXなんてただの流行だろう」という方まで出てくる始末。

デジタル変革の必要性は叫ばれるものの、全くついて行けていない日本企業がほとんどです。しかし書店に並ぶ書籍や雑誌、メディアの記事は現実を全く踏まえておらず、その薄っぺらさに私は正直辟易していました。

そんなときに書店でふと手に取ったのがきっかけです。あえて「DX」という言葉を使っていない点が気になったのです。そして、はしがきに目を通してすぐに購入しました。買って正解でした。デジタルトランスフォーメーションが一体どのようなものなのか、について、豊富な事例を交えて具体的に解説してあるのです。

非常に良書なのですが、ITの知識がないと読みづらいこともあり、Amazonでの評価は低めです。しかし、今の時代ITの事を知らないと言っていては生き残れません。

経営層、およびDX部門のトップあるいはCIOクラスの方々にはぜひ目を通していただきたい一冊です。

本書の概要

本書を要約すると、おおよそ以下のようになるかと思います。

あらゆる組織がデジタル技術を取り入れて組織全体で変革を起こすには人材・プロセス・技術の3つを柱にして変革を行う必要がある。そして変革に対しては5つのアプローチがある。1つ目は、顧客のニーズを知るために人材、プロセス、技術を編成すること。2つ目は、安定した業務を支える、信頼性および効率性の高い中核プロセスを確立するために人材、プロセス、技術を編成すること。3つ目は、デジタルサービスの構成要素であるソフトウェアコンポーネントを構築・利用するために人材、プロセス、技術を編成すること。4つ目は、デジタルサービスの成功と進化に対して個々の従業員が確実に責任を担う体制を作るために人材、プロセス、技術を編成すること。そして最後5つ目は、自社のデジタルサービスに関するポートフォリオを外部の事業パートナーが利用して拡充できるようにするために人材、プロセス、技術を編成すること。

更にまとめると、顧客セグメントを絞って顧客が感じる価値を探り続け、既存業務を極限まで自動化し、新事業やサービスを迅速に立ち上げるためのソフトウェアをすぐ利用できるようにし、新事業やサービスの成果を迅速に評価できるようにしておき、それらの仕組みを外部にも開放してエコシステムを作る、という感じでしょう。

上記はあくまでようやくですが、実際にこれらのことを行っている企業の事例が豊富に紹介されています。

本書からの抜粋

これまで企業の成功に寄与してきた人材、技術、業務プロセス、システム、職務分掌が、急速にその重要性を失いつつある。従来型大企業がデジタル経済における競争に参加していこうとするなら、デジタル化対応に向けた企業の再デザインが不可欠である。それは決して簡単なことではない。しかし、今すぐに着手しなければならない(P.6)

本書では、デジタル企業デザインを、バリュープロポジションを形作り、デジタル技術の可能性によって実現するサービスを提供するために、人材(役割、説明責任、構造、スキル)、プロセス(ワークフロー、手順、手続き)、技術(インフラストラクチャ、アプリケーション)を全体的、組織的に構成することと定義する(P.36)

デジタル企業デザインの目的は、企業の俊敏性を高め、急速に変化する技術と顧客ニーズに対応し、進化を続ける革新的なデジタルサービスのポートフォリオを構築できるようにすることである(P.53)

筆者たちは、企業のデジタル化対応を成功に導くための組織能力として、5つのビルディングブロックを見出した(中略)

①シェアード・カスタマーインサイト
顧客のニーズを知るために人材、プロセス、技術を編成すること

②オペレーショナルバックボーン
安定した業務を支える、信頼性および効率性の高い中核プロセスを確立するために人材、プロセス、技術を編成すること

③デジタルプラットフォーム
デジタルサービスの構成要素であるソフトウェアコンポーネントを構築・利用するために人材、プロセス、技術を編成すること

④アカウンタビリティフレームワーク
デジタルサービスの成功と進化に対して個々の従業員が確実に責任を担う体制を作るために人材、プロセス、技術を編成すること

⑤外部デベロッパープラットフォーム
自社のデジタルサービスに関するポートフォリオを外部の事業パートナーが利用して拡充できるようにするために人材、プロセス、技術を編成すること(P.55)

成功を収めているデジタル企業は、自分たちができることと顧客のウォンツを把握するために、商品化の見込みのあるサービスを実験することが当たり前にできている。デジタルサービスに関する実験を自社のDNAに組み込むように、人材、プロセス、技術が構成されているのである。そうすることで、シェアード・カスタマーインサイト(顧客の購買意欲をそそる製品は何か、顧客ニーズに応じていかにデジタル技術を活用するか、に関する組織的学習と定義される)と我々が呼称するビルディングブロックを改善しているのだ(P.66)

反復型実験学習プロセスで新たなサービスを開発するやり方は、従来型企業のトップまで上り詰めたほぼ全員にとっては、まったくなじみのない概念であろう(中略)デジタルイノベーションの大半はずっと小さい規模で行われる(P.86)

デジタル化はオペレーショナル・エクセレンスを高め、デジタル対応化はカスタマー・バリュープロポジションを高めるのである。この2つを混同しないことが重要だ。デジタル化を推し進めてデジタルトランスフォーメーションを自分が手動していると考える経営陣が、実は時代遅れのバリュープロポジションを土台にしてオペレーショナル・エクセレンスを実現しているだけなのかもしれない。(中略)ウーバーやリフトが登場する中で、町で一番のタクシー会社になっても成長に限界があるだろう(P.91)

オペレーショナル・エクセレンスは、単なる良いアイデアから「必要条件」になった。デジタル化は、少し前までは、例えば基幹系情報システム(ERP)の導入はビジネストランスフォーメーションの目標となり得たが、現代ではデジタル変革の前提条件となっている(P.92)

効果的なオペレーショナルバックボーンを構築している企業は、構築していない企業と比べ、2.5倍のアジリティ(新たな製品やサービスの開発においてサービスを横展開する度合い)と44%の革新性(新たなサービスから得る収入の割合)を有している(P.96)

オペレーショナルバックボーンを構築して維持することは非常に難しい。そのため、大半の企業にはオペレーショナルバックボーンがない。しかし、中核業務の遂行能力をある程度でも短期間で手に入れるためには、必要に応じて、業務の複雑性の軽減、デジタル化の対象範囲の絞り込み、求める水準の引き下げにすぐにでも着手すべきである(P.116)

デジタルプラットフォームの特徴は、オペレーショナルバックボーンの特徴とは明らかに異なる。具体的に説明すると、オペレーショナルバックボーンは強固に統合され安定した本番環境を提供して、業務プロセスの信頼性とセキュリティを確保するのに対し、デジタルプラットフォームはデジタルサービスを構成するデータ、ビジネス、そして技術の各コンポーネントへのアクセスを向上させる(中略)デジタルプラットフォームは、デジタルサービスを短期間で設定するために使用するビジネス、データ、インフラストラクチャの各コンポーネントのリポジトリである(P.121)

デジタルサービスのコンポーネント化は、デジタル対応化特有の取り組みである。デジタルサービスのスピーディなイノベーションの基盤となるデジタルプラットフォームを構築するためには、ビジネスをコンポーネントの観点から検討することが必要だ(中略)企業がデジタルコンポーネントとデジタルサービスを開発すると、その企業はソフトウェア企業となる(P.150)

当然のことながら、デジタルサービスの管理を個別のチームにそれぞれ任せた場合、組織内で混乱が生じやすい。担当するコンポーネントやサービスを最適化するためにその従業員がとった行動が、企業目標に対する妨げになることもある。企業はこうした混乱を説明責任フレームワークを構築することで回避する。アカウンタビリティフレームワークは、ここでは、自律と協調のバランスを考慮した、デジタルサービスとコンポーネントに対する責任の分担と定義する(P.154)

アカウンタビリティフレームワークの構築は、全てのビルディングブロックの中で最も難しいかもしれない。リビングアセット(ソフトウェアコンポーネント)を管理する能力獲得を阻害する、最大の障害物を見つけることが必要である。そして、実験をして、責任を有効に割り当てる方法を学習することにすぐに取りかかるべきだ(P.189)

本書のために行ったリサーチによると、すべての企業にとって最善のロードマップというもの存在しない。企業はデジタルトランスフォーメーションに乗り出すに当たり、それぞれが異なる能力やカルチャーを有しており、将来の目標も各社独自に設定している。企業の間で共通な点は、5つのビルディングブロックが掲げる能力や機能を強化する必要があるということだ。各社で異なる点はデジタル対応化への道のりを歩むスピードと順番である(P.225)

本書によって、顧客の購買意欲をそそるデジタルサービスを短期間で提供できるように企業を再デザインするためのアイデアや自信を読者が得られたのなら、それこそまさに筆者たちが望んだことである。次は、本書を閉じて、デジタル仕様に企業をデザインする時間だ!(P.275)

気づき・感想

大きく2つの気づきがありました。

1つ目は、気づきというよりは私がある程度感じていたことが再確認できたことです。それは、デジタルトランスフォーメーションとは、決して一部の業務改革や新規事業開発ではなく、企業全体あるいは外部企業も巻き込んだ「大改革」である、ということです。

2つ目は、企業変革にパターンのようなものはないけれども、デジタル変革については5つのアプローチ全てについて、優先順位をつけて最適な経営資源を投入することによって実現可能であるということです(企業によっては10年以上かかる営みになることはあるけれども) 。

デジタル変革も企業変革の営みであるため、世の中に流布するDXというビッグワードに踊らされず、地道に試行錯誤を繰り返しながら(ときには時間をかけて)行われるべきものであると再確認できました。

ぜひじっくり腰を据えて読んでみてください。

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